日本的な美意識で見るといささか病的で悪趣味に感じるガラス器を作った人がいます。エミール・ガレです。
しかしその作品には素晴らしい芸術性も感じられるのです。
エミール・ガレ(1846-1904)やドーム兄弟の独創的なガラス器の作品を700点も収蔵、展示してあるのが諏訪湖のほとりにある北澤美術館です。
その展示品はフランスのアール・ヌーヴォー期のガラス工芸品です。芸術的な工芸品です。
バルブ製造会社で財をなした北澤利男氏が設立し、1983年に開館したのです。
隣にはやはり北澤利男氏が設立したサンリツ服部美術館があります。
こちらには昔の茶道具や古書、そして日本画が展示してあります。
北澤利男氏は日本と西洋の芸術を広く愛していたのです。
一般的に優れた工芸品は職人的な技術の確かさと芸術性が微妙に合体したものです。
エミール・ガレやドーム兄弟はガラス工芸の新しい技法を次々と創作していったことが素晴らしいと思うのです。
工芸品を見た時、人は各人各様の感じ方をします。人それぞれ感じ方が違うのが自然です。
私はエミール・ガレやドーム兄弟のガラス器を見ると病的な印象を受けます。悪趣味だとも思います。しかしその悪い印象を綺麗に打ち消すような美しさがあるのです。深い芸術性を感じるのです。
ドーム兄弟の作品はガレの作品より病的ではありません。そのせいで私はドーム兄弟の作品が好きです。一方、家内は美術としては絶対ガレが優れていると好んでいます。
今日は北澤美術館に展示してあるエミール・ガレやドーム兄弟の作品をご紹介いたします。そしてその後で多彩なガラス製品を売っている「ガラスの里」へもご案内いたします。
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1番目の写真は一夜茸というキノコを模した作品です。高さ83cmの大きなものです。北澤美術館で非常に大切にしていて、貸し出し厳禁の展示品です。北澤利男氏が一夜茸のガレの作品が飾ってあうるパリのエッフェル塔にあるレストランに5年間通い、店主を口説き、やっと入手したガレの晩年の傑作です。一夜茸とは一晩だけ10cmくらいに成長して翌朝には朽ちて土に帰るキノコです。
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2番目は何やらバラの蕾のようなものが貼り付けてあります。さかさまになっているのが異様に感じました。
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3番目は花瓶に貼り付けてあるカトレアの立体的な飾りが何故か私にはその美しさが不気味に感じるられるのです。
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4番目は電気スタンドの傘の上に蝶々のような模様が貼り付けてあります。
色彩も構図も普通でありません。しかし優れた芸術性が感じられます。この電気スタンドを真似したお土産品が北澤美術館内の売店で沢山売っていますが、残念ながら芸術性皆無なものばかりです。
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5番目の写真はドーム兄弟の1900年頃の作品です。(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%85%84%E5%BC%9F )
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6番目の写真は北澤美術館を作った北澤利男氏です。
さてこれらの作品はアール・ヌーヴォー期のものと言われています。そこでアール・ヌーヴォーについて少しだけ説明します。
幕末の開国と共に海を渡った浮世絵や焼きものなど精緻をつくした日本の工芸は、ヨーロッパに強い衝撃を与えました。各地で日本ブームがおこりました。
あでやかな色使いや大胆な構図は、印象派や世紀末の工芸改革運動「アール・ヌーヴォー」に深い影響を与えました。
「アール・ヌーヴォー」とはこの新しい芸術改革運動のことなのです。ニューアートのことです。
そして「ジャポニスム」という言葉も生まれました。
こうした現象は、「アール・ヌーヴォー」の旗手、フランス北東部の都市ナンシーに生まれたガラス工芸家エミール・ガレ(1846-1904)の作品にも表れています。
色とりどりの草花が咲き乱れ、バッタやトンボの飛び交う独特の作品世界、そして自然を手本に、四季折々の風景を刻み込んだガラス作品は「ガレ様式」と呼ばれています。日本の美に注がれたガレの熱いまなざしが感じられるのです。
末尾の参考資料にドーム兄弟のことと北澤利男氏の短い紹介がありますのでご覧頂けたら嬉しく思います。
さてガラス製品と言えば諏訪湖畔には「SUWAガラスの里」という大型商店があります。
美しいガラスの食器、電気スタンド、シャンデリア、ガラス製のネックレス、ブローチなどなんでも売っている大きい店です。芸術とは無関係ですがきらびやかで楽しい店です。
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7番目の写真は「SUWAガラスの里」の建物です。前に広大な無料駐車場があります。
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8番目の写真は店内の展示品の写真です。
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9番目の写真は現代のガラス作家の展示コーナーです。
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10番目の写真は店内にあるガラス細工の体験教室です。自分好みのコップや花瓶が連れます。
さて美しいガラス作品の展示場としては箱根にルネ・ラリック展示館とガラスの森の2つがあります。
ルネ・ラリックは実用性を重視し販売目的でオリエント急行の車内の装飾や美しいガラスの器やガラス壁から香水瓶、婦人用装飾品を多種多様作りました。すべて実用品ですが芸術性が感じられるのです。
ガラスの森の方はベネチア・ガラスを主にシャンデリアや花瓶や大きなガラスの器が展示してあります。古い時代のヨーロッパの絢爛豪華な品が展示してあります。
これらの展示場を見て回ると芸術には創造力と卓越した職人技が欠かせないことがしみじみと理解出来るのです。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
===参考資料===============
(1)ドーム兄弟、
ドーム兄弟(Daum Frères)は、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスのガラス工芸家。兄オーギュスト(Auguste Daum, 1853年 - 1909)年と弟アントナン(Antonin Daum, 1864年 - 1930年)の2人。ガラス工芸メーカーのオーナー一族として「ドーム兄弟」の呼称が定着している。
初期の作品にはエナメル彩色による絵付けが多く、1910年前後から色ガラスの粉をまぶしつける技法「ヴィトリフィカシオン」を多用して、色彩が複雑に混ざり合う重厚な色調の作品を製造した。また工芸デザイナーのルイ・マジョレル(1859-1926)にデザインを依頼した金具を装着したガラス作品もある。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%85%84%E5%BC%9F )
(2)北澤美術館の沿革と北澤利男の紹介、
1983年5月、信州諏訪湖のほとりに諏訪北澤美術館が開館。つづいて1989年4月、山梨県清里高原に清里北澤美術館が開館。北澤美術館は北澤利男が長年にわたって収集した美術コレクションを一般に公開し、地域文化の向上に寄与する為に設立した財団法人によって運営されております。コレクションはエミール・ガレに代表されるフランス・アール・ヌーヴォー期のガラス工芸700点と、現代日本画200点から成っています。
創設者の北澤利男は、1951年(株)キッツ(旧北沢バルブ)を創業し、経営が軌道に乗った40年ほど前から新作日本画の収集を開始。東山魁夷・杉山寧らの作品を集める一方、近年はアール・ヌーヴォーのガラス工芸収集に力を入れ、現在この分野では世界有数のガラスコレクションを作り上げました。
(3)サンリツ服部美術館、
http://www.sunritz-hattori-museum.or.jp/about.html
『服部一郎氏を偲ぶ』より
力いっぱい仕事をする傍ら、美術に心を寄せ、諏訪への出張の折々に車窓から眺める八ヶ岳の山々に、いつも活力を見出していた亡夫、服部一郎。彼の夢は美しい諏訪湖に望む地に、沢山の人々が訪れてくれる美術館をつくり、自身の人間性を表現することでした。その故人の遺志を継ぎ、何よりも永年私共がお世話になりました諏訪の方々への感謝の気持ちから、この地の文化発展のお役に立ちたいと思い、私財を投じて設立致しましたのが、財団法人サンリツ服部美術館でございます。